『遠野物語』12・13話の乙爺は何を語りたかった?怖い話のそばにある、聞き手の不在

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河童や山の不思議を読もうと『遠野物語』を開くと、途中で、話を聞いてほしい一人の老人に出会う。

第12・13話の「乙爺(おとじい)」だよ。不思議な出来事の正体よりも、語りたい人がいても話が受け取られない場面に目が止まる二話なんだ。

短いけれど、最後の注まで続けて読んでみよう。

目次

第12話は、昔の話を誰かに聞かせたい人の紹介

青空文庫の本編では、土淵村山口の新田乙蔵という老人を、村の人が乙爺と呼ぶ、と記している。

家々の盛衰、館の主の伝記、昔からの歌、山奥の伝説。乙爺はそうした話をよく知り、誰かへ聞かせておきたいと口にする。けれど、病み、老いた彼のもとへ、話を聞きに立ち寄る人はいないと語られる。

知っている人がいる。伝えたい気持ちもある。それでも、話は勝手に次の人へ渡っていかないんだね。

そして注には、乙爺が1909年の初夏に亡くなったことが記される。本文の「聞かせておきたい」に、もう聞きに行けない時間が重なる。ただし、どの話が何件失われたかまで、この一節から数えることはできないよ。

第13話を読むと、乙爺の暮らしがもう少し見えてくる

続く第13話には、乙爺が長く山で暮らし、峠で往来する人に甘酒を売っていたことが出てくる。

荷物を運ぶ人たちは、彼を父親のように慕っていたという。一方、晩年は故郷に戻り、子どもたちは北海道へ渡り、彼は一人で暮らす。

第12話だけなら、昔話をたくさん知る老人という紹介で通り過ぎそうになる。続けて読むと、人が行き交う峠にいたころと、一人になった晩年の隔たりにも目が向くね。

『遠野物語』の不思議は、どこに何が現れたかだけでなく、誰が話し、誰が覚えていたかにもつながっている。この二話は、その人へ視線を戻す入口として読めるよ。

『新版 遠野物語 付・遠野物語拾遺』を楽天で確認する。角川ソフィア文庫のISBN9784043083206。今回読んだのは青空文庫の本編12・13話で、この販売版の注や解説をすべて読んだ紹介ではないよ。

次に別の怪異を読むときは、登場する人の名前も一つ拾ってみて。どんな人が、その話を知っていたのか。その名前の前後をもう少し読むと、怪異を覚えていた人の暮らしにも近づけるね。

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この記事を書いた人

各地の伝承や史跡を資料と現地案内から調べ、地域文化として紹介する編集部です。

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